不安と欲望

今季に取っていた授業でもう一つ面白かったのが、Mergers and Acquisitions (M&A) である。

自分はM&A案件の精査や、買収後の統合に関しては経験が多少あるけれど、全体を通して関係者として経験したことはない。それでも、企業合併・買収については、1つ1つが特別で、ほんと様々な側面があり、とてつもなく深いものだということは何となく分かる。なので、こういう授業ではともすればある側面だけにフォーカスして全体感を失ったり、逆に上っ面で内容の浅いまま終わってしまう危険がある。

しかし、この授業はいい意味で期待を裏切ってくれた。M&A全体についての大きなテーマを捉えつつ、それぞれが持つ深みを垣間見せることに成功している、非常にバランスの取れた授業だった。

大きな成功要因は、この授業を1学期通して教えてくれた講師にある。教授と一緒に教えるのは、Safra Catz。世界第二位のソフトウェア会社であるオラクルのNo2(社長・共同経営者)である*1

ラクルは、これまでにほぼ100回もの企業買収を通じて現在のポジションを確立していて、社内に企業買収専用の部隊を持っている。文字通り百戦錬磨である。入札相手との激しい競争、買収ターゲットとの泥沼の裁判、独占禁止法の規制など、買収に関するあらゆる問題にも直面している。

毎回、M&Aに関連するテーマについて、教授のセオリー、キャッツ氏の経験談とそこからくる実践的な学び、そして豪華ゲストの講演によって、テクニカルな概要と、それを実践するにあたって出てくるより「人間的」「実際的」な側面や、主人公が経験する心理に光までが当たる。

そういう訳で、授業で出てくる具体的な内容はもちろん口外禁止なのだが、自分が得た大きな学びを書きたいと思う。


Fear and Greed - 不安と欲望 -

M&Aの渦中にある登場人物はすべて、不安と欲望の葛藤に翻弄される。
例えば、買う側の経営陣としては、
「早く成長したい欲望」 「自分がトップの間にデカイ成果を上げてヘッドラインを飾りたい欲望」 「より大きな『帝国』を築きたい欲望」
そして
「悪い会社を掴まされる不安」 「足元を見られ高値で買わされる不安」 「強く交渉しすぎたためにディールがまとまらない不安」 「買収後の統合がうまくいかない不安」

買われる側としては、
「実際より高く売りたい欲望」 「(大株主の)自分が大儲けしたい欲望」 「会社を次の成長ステージに導きたい欲望」
そして
「買われた後の自分の首の不安」 「自社の誇りやビジョンを踏みにじった守銭奴と評価される不安」 「強く交渉しすぎたためにディールがまとまらない不安」 「自社のカルチャーが毀損されて統合がうまくいかない不安」

などなど。
だから、「誰」がその交渉の関係者で、個人としてどういうアジェンダや不安・欲望を持っているか、を自分側と相手側について詳細に知っていることが重要になる。
だから、同じ会社であっても、「人」によって過程・結果は変わるし、「この結果がよかったのか」という問いに適切に答えるのは多くの場合非常に難しい。

言葉にすると、どういう交渉や戦いなどにも当てはまることなんだけど、経験者が語ると重みがある。


もう一つ、非常に印象に残っていることが、ゲストに、オラクルの共同経営者の一人で、世界トップのPCメーカーであったヒューレット・パッカードの元CEOであるMark Hurdが来たときである。彼は、迷走していたHPを大きく立て直した功績と、一方でセクハラスキャンダルで電撃辞任という傷も負っている人である。
その彼が、HP時代の経験や、「迷走する世界トップクラスの企業に大鉈を持って乗り込んで立て直す嫌われ役」であることの心労・恐さ、現在のHPの問題、その後オラクルに移ってからの仕事のやりがいの違いなどを非常に深く語ってくれた*2


このクラスの大物が、片や毎週3時間を割いて自身の学びを惜しげもなく伝授してくれ、片や自身の失敗や恐怖も含めて生徒とのQ&Aに正直に答えてくれる。
その経験・内容自体も価値が高い。また、自分の将来の姿を描くときに、もしこの規模の企業の経営者になるとしたら、どういった感じの人物になっているものなのか、ということを想像するにあたっても、リッチな時間だった。

*1:2009年 Fortune誌が選ぶビジネス界で最も影響力のある女性12位、2011年年間報酬40億円など

*2:この数週間後にHP・オートノミー買収問題がオラクルも絡んで噴出したことを考えると、いいタイミングで非常に貴重な話が聞けた。Oracle、HPが買収したAutonomyのCEOをうそつき呼ばわり

ボストン旅行&キャリアフォーラム

10月の半ばの話になるけど、ボストンキャリアフォーラムがてらボストンに行ってきた。

ボストンキャリアフォーラム(BCF)というのは、「約1万人参加の世界最大の日英バイリンガルジョブフェア」・・・だそうな。
MBAでも、卒業後の日本企業への就職や、外資系企業の日本オフィスでの就職を目指す人はほぼ参加するイベントである。
僕は、求職側ではなく、会社のバイトで「採用側」として行ってきた。というか、それを口実にボストン観光に行ってきた。

就職イベントは就職活動中の学生以来だったけど、割とそのままの雰囲気だった。
ボストンに7-8千人もリクルートスーツの日本人がブース巡りをしている光景はだいぶ異様で、「何も海外大学まで行ってリクルートスーツを着せられなくても・・・」と思ってしまう。

自分は採用側として、ブースに来た学生に会社の簡単な説明をしていた。
基本的自分の会社のことは好きなので、普通に話をしているだけの非常に楽ちんな役割で楽しかった。「色んな人が日本から海外に留学来ているんだな〜」と見ていた。

こういう前途有望そうな若者を前に、もしアドバイスとかを求められたら、何て言葉をかけようか、ほんとに難しいなぁ思うのだけど、自分の中で記憶に残りそうなことを少し。

「海外の大学に進学したことは、御社を受けるにあたって有利ですか?」 と聞かれたときのことで、どう答えるか迷った挙句にこんなことを言った気がする。

「海外の大学いいたこと自体は、それほど有利ではないと思う。けど、海外の大学に行くということは普通ではない経験だから、自分がどういう風に考えてそうしたのか、そうしてみて自分についてや世界について何が分かったのか、というストーリーを考えてみればいいと思う。きっと何か自分特有の動機や背景があって、人とは違う考えや学びがあるはずだから、そこをきちんと自分の中で整理して説明できるといい印象なんじゃないかな」 みたいなこと。

場面は変わるけど、近所のカリフォルニア州立大学バークレー校の日本人との交流会でも、日本人の学部4年生に、
「内定をもらっている日本の大企業(海外志向でグローバルな業界リーダー)に行くか、アメリカで小さいところに就職してキャリアを積みあげるか、どっちがいいと思いますか?」 って聞かれた。

もちろん一つの答えはないし、難しい選択だなぁと思った。考えたのは、如何にしてこの子は将来本当に情熱をもってやりたいことが見つかるだけの自由なマインドや積極性を保ちつつ、かつそこへの転身ができる現実的な自由度(=選択肢)を確保するのか。
結局質問にはまともに答えられなかったけど、そういうことも考えて決めればいいかもなぁ、とか言ってたはず。

自分自身は日本の高校・大学だし、ほとんど1つの会社でしか働いたことがないから経験から多くは語れない。それでも、スキル的に大きく成長できる環境、キャリア選択の自由度が高い時期や境遇、情熱を持っていた仕事やそうでもない仕事を経験して、それについて肯定的に捉えているので、そういう立場を目指すのも悪くないよ、とバイアスのかかった意見ではあるが実感を伴う意見を持っている。
(大体の人は自分の来た道や選択を肯定的に勧めるものだと思うけど)
いずれにせよ、視野が狭くなったり、追い込まれた選択しかなくなる状況はもったいないと思うので、いずれにせよ積極的な選択ができるように意識・行動を保つのがいいと信じている。

分かりにくいかな。。


まぁそんなことを考えつつ、ボストンの街を家族で観光した。
秋が深まる前のボストンは意外とまだ暖かく(10月半ばだから)、チャールス川沿いも想像以上にいい感じで、街のちょっとヨーロッパ的な古いテイストも好きだった。この気候のときだけ住んでもいいなぁ、と思った。


PS 実はBCFに最も多くの参加者は日本のトップ私学から来てたりして、なんでわざわざこっちに来ているのか説明つかない事情の人も結構いた気がするけど、そういう「やる気」が企業に伝わるんでしょうかね。

子育て@スタンフォード

早いもので息子君が4カ月になり,2人での外出もわりとすんなりできるようになり,
毎日の予定がある程度FIXしてきたのでまとめたい。
また最初は苦労した,赤ちゃんがいる生活でのお買い物について始めにまとめよう。

■お買いもの

アメリカでの店頭でのお買い物は基本的に,商品がきちんと陳列されていない,店員が少ない,お店が大きい,空いてるレジが少なく長蛇の列,などマイナス面が多く,日本ほど楽しくない,効率的にできない。

赤ちゃんがいて時間を無駄にできなくなった今,買い物はネットショッピングに移行中だ。オムツなど赤ちゃんにまつわる日常品はドラッグストアよりもAmazon momの方が俄然安いし,重いのに運ぶ手間もなくなる。
自分の洋服もお店で探す・試着の手間も赤ちゃんと一緒だと取りにくいからネットに。ネットの方が割引しているし返品もタダなのだ。Black Friday(年に一度のセールの日)に旦那さんが風邪をひいたので自分の服を初めて真剣にネットショッピングしてみたが,うーん,意外と難しかった>_<
でも便利だからネットショッピングスキルをあげていこう!

また,スタンフォードでの赤ちゃん用品のお買い物は譲り合えるいい制度がある。スタンフォードの学生・職員が登録できる,売買の希望などをメールしあえるメーリングリストがあるのだ。うちは時期物なのに意外と高い赤ちゃんのおもちゃをここで5分の1くらいで手に入れた。赤ちゃんも大喜び♪

■毎日の予定
スタンフォード提供のクラス

スタンフォード大学では学生の奥さんや赤ちゃん向けに様々な無料のクラスが設けてあり,赤ちゃんができてから特にこのクラスのお世話になっている。赤ちゃんができる前は内容的にちょっと物足りなかったが,赤ちゃんがいると気持ち半分でクラスに臨むのでちょうどよいし無料なので無理せず続けられて非常にありがたい。

特によく行っているのはヨガ教室。このヨガ教室では産後の体にとって必要な筋肉を鍛えるメニューが多いというメリットはもちろん,他の赤ちゃん・ママと交流できるという楽しみもある。私はこっちでヨガの資格をとったというスーパーアウトゴーイングな先生が個人的に好きだったりして今後の生活の相談ランチをさせてもらったり♪

最近行き始めたのが,赤ちゃんと参加できる英語教室,プレイデートのクラス,学生の奥さん同士の交流お茶会。
赤ちゃんがいると生活が赤ちゃん中心になり,気づけば旦那さん以外話していない(しかも全然聞いてくれない;_;),というちょっとぽっかりしてしまう事態になってしまうので,こういった無理なく参加できる交流の場がとても楽しい。ただおしゃべりするだけでなく,近辺に住んでいるママさんたちとどんなオムツがよい,どこの病院がいいなど,ママ特有の悩みや情報を共有・交換できるのも魅力だ。気があってもっと話したかったり,赤ちゃんの月齢が近いと今後プレイメイトに発展したりする展開もあるんだろうな。また,いろんな国の人たちが来ているので,おしゃべりが英語になるでなんとなくの達成感,勉強した感が得られるのだ。基本的に“ルーティンワークをきちんとやる”育児をしていて,この気持ちを得るのはなかなかできないのでこれまた結構うれしいもの。

スタンフォード外のクラス

大学提供のクラス以外に今日初めてMy Gymという赤ちゃんのちょっとした遊戯のクラスに行ってみた。家にある遊具とあまり変わらない上に赤ちゃん同士の交流が少ないのであまりしっくりこなかったが,他にも似たようなクラスやスイミング,音楽教室などあるようなので色々試してみたいな。

・プレイデート

日本人とは月一の30人くらいの赤ちゃん・ママが集まる会,各週の月齢が近い赤ちゃん・ママ6人の会,外国人とは旦那さんのMBA同級生の奥さんの香港人のお友達と週一で赤ちゃんを連れてのお散歩をしている。
こっちの生活では家が日本の家と比べてかなり大きいので家の中でプレイデートがしやすく場所に困らない。またスタンフォード校内は緑豊かな公園のようになっていて,赤ちゃん・ママにとって安心・安全なお散歩コースなのだ。毎日平均3回もぐるぐると散歩している。

赤ちゃんが安定してきてからはこのようにこちらでの生活はとても充実していていろんな意味で満たされてきた。『いつも何か物足りない病』な私だがさすがに赤ちゃんがいるとへとへとでこの生活を回すだけで結構満足。赤ちゃんで疲れ,他にも達成感や学びを得られている今この瞬間はとても幸せだな〜

Investments 授業

2年生向けの選択授業の一つに、Investment Management and Entrepreneurial Finance というものがある。

これは公開株およびプライベートエクイティの世界での投資について、毎回異なる投資家がゲスト講演者として来校し、その専門分野や過去の投資案件あるいは投資哲学について語る、というものである。
卒業後に投資の世界に進む人はほとんど選択している気がするけど、受講者の半数近くは、卒業直後はプロの投資家にはならない、と言っていた。

この授業はもう45年も同じ教授によって開かれているんだけど、毎回授業に来るゲストというのが、それぞれの世界ではとても有名だったり実績を上げている人であり、すべてこの授業の過去45年の卒業生である。なんかそのあたりはNHKの『課外教室ようこそ先輩』っぽい。
ゲストは投資の世界で成功している人たちなので、当然、みんな億万長者・・・。

公開株投資の話は、夏季にロング・ショートのエクイティファンドでインターンをしたこともあり、ついていけるけど、プライベートエクイティの方は内容自体は詳しくはついていけなかった。

学んだことでは、投資手法の細かい話や業界の話は、そもそもよく知らないから個人的にはあまり吸収できず。。
でも、投資家の立場にせよコンサルタントの立場にせよ求職者の立場にせよ、会社の善し悪しを見るポイントについては幅広く意見を聞くことができ、自分の中の基準も深めることができたと思う。

特に印象に残っている点としては・・・

  • 半分以上の時間を"Front line"(= 現場)で過ごせ
  • 自分で決めた投資基準に則って決断せよ
  • 意思決定のプロセスを記録しておけ

1点目は、まさにどんな立場でも言えることで、オフィスでPCの前に座ってどれだけ会社の財務諸表やアニュアルレポート、ウェブ記事を読んでも、現場で見聞きすることにはかなわない。できるだけ、現場、顧客、仕入先など業界内の人から多くの意見を聞くことが会社を評価する上で重要。「経営陣の言うこと」は確実性は上記よりは必ず落ちる (経営陣が過去にやったこと、は嘘をつかない)。

2、3点目は、意思決定の基準、プロセスおよび実行における規律(Discipline)を担保するもので、責任ある立場で意思決定していく人には共通して重要な原則だと思う。

そういったことを、優秀な人々が集う厳しい投資の世界で勝ってきた人達に言われると、そういった努力やプロセスの重要さを実感させられて身が引き締まる。
一方で、「自分でも何かできる」ような気になる。投資の世界じゃないかもしれないけど、どこかで。

その点に関して、一人のゲストがいいことを言っていた。

"The world does not have enough smart, educated and honest people...pursue what you care about"
僕の解釈としては・・・世の中には優秀で教養があって正直な人はそもそも不足している。だから、競争が緩そうとか勝てそうとかオイシそうなところに行くのではなく、自分のパッションの向くところに行き、実直にやれば結果はついてくる。
ということかな、と。

この2年間は、自分の可能性の多さと大きさへの大きな期待、恵まれた境遇への感謝と無駄にできない義務感、優秀な周囲への不安、などいろんな感情に翻弄されながら人生における大きな意思決定を迫られるので、改めてこういう原則を示されると安心するし、もっと自分を正直に振り返ろうと思う。

結局、僕にとっては、すべての授業が、それが自分の得意・不得意、興味の強さによらず、最後には「自分はこれからどういったことがしたいのか」の問いへの仮説を与えてくれている。


課題図書:投資の世界での「古典」で、value investing についての深い示唆に富む (らしい・・・まだ読み終わってないさ)

ヘッジファンドでのインターン

MBA1年目の2年目の間の夏休みでは、香港にあるヘッジファンドインターンをした。
日本市場における公開株を調べ、その会社の株価が中長期的に上がるか、劇的に下がるかを見極める、といった仕事だった。

もともと、投資に興味があったわけでは全くなく、どちらかというといい会社のビジネスや組織の仕組みなど、会社の中身に興味があった。一方で、果たして「投資をする」とか「株で稼ぐ」「他人のお金をマネジする」ということに自分が興味・情熱を覚えることができるのか、というのを体験してみたかった。

投資経験(PE、ヘッジファンドなど)がなくてバイサイドの仕事に就くのは一般的には難しいみたいだが、先輩の伝手もあり、インターンの機会を得ることができた。

ファンドによって投資手法などに色々と特色があるものだけど、やってみると、このファンドのアプローチ自体は好きだった。市場の大きなトレンドから、ビジネスモデル、会社の組織などを深く調べるだけでなく、消費者目線から、実際にユーザーにインタビューしたり、自分でミステリーショッピングをしながらビジネスを「診断」する。こういったプロセスや、その過程で得られる業界の知識や実際のプレイヤーとの会話、消費者インタビューから出てくる仮説などを考えて投資判断を見極めるストーリーにする作業は面白かった。

一方で、これを生業にするには、自分には「株」に対する情熱が足りない、この世界の人たちとは「臭い」が違うな、というのも分かった。
僕の世話をしてくれたファンドマネジャーは、同じスタンフォードの卒業生だったが、大学生の頃から株が大好きでファンドマネジャーになると決めて生きてきた人だった。すごく頭もキレて、会社についての話をしているとすごく刺激的であったが、株への「愛」という点で、僕とは全く違うなぁ、と実感した。


2年目に入り、金融系での名物授業である、その通称も"Investments" という授業を取っている。そこに出てくるスピーカーや生徒の多くは、卒業後に投資家の道を歩もうとしている人である。彼らについても、いろんな業界、事業、会社について奥深く分析して理解している点には刺激を受けるが、一方で「投資してリターンを稼ぐ」というミッション自体にはやはり生理的なレベルで共感しない、というか親近感が生まれない。「こういう業界をもっと好きになれたら、スキル的にはそれなりに向いている&お金ももっと稼げるのになぁ」と思ったりすることもあるけど、今のところはこの業界からは心理的な距離があるみたいだ。
一方で、この業界の人たちがどのように考え、意思決定をしているか、というのは、資本主義経済の中で仕事をする上で非常に大事だと思うので、それだけでもこの夏・秋の経験は貴重なものだと思う。


ちなみに香港という場所については、滞在期間も短かったのだが、一言でいうと、「結婚して住みたい場所ではない。ましてや子持ちでは」という印象だった。
人口密度・温度、湿度・空気の汚さなど、自分が家族とともに長期間住みたい場所ではないな、という強い印象を受けた。


このようにして、興味があるかもしれない、向いているかもしれない業界の仕事や住む場所を、リスクなしで実際に試して、自分に正直にやりたい、やりたくない、と判断できる機会があるというのは、改めて本当に恵まれていると実感した。ともすれば、金銭的な魅力などで何となく足を踏み入れてしまいそうな業界だからこそ、実際に垣間見て自分の中で「ワクワクする」仕事かどうかを正直に測ってみることで、より自分に正直な選択をすることができる、と思う。

学業の位置づけ

スタンフォードMBAにおける学業 - 授業や成績 - の位置づけは微妙なところだと思う。

大学院というより、日本の学部に近いかもしれない。いちおう単位を取らないと学位はもらえないけど、成績は就職に直接影響しないし、みんなが成績を競っている訳ではまったくない。

勉強を頑張るインセンティブ(外的な動機付け)、というのはいくつかある。
ひとつは、最低クリアしなければいけないGPA(評定平均)があって、クリアしない卒業が危うくなるとかペナルティがあるらしい。あと、学校を通じたバイト(TAとか)をするにもクリアしていなければいけないGPAがあるみたいだ。
先輩によると、学期が終了するごとに、評定が危ういと学長から「もっと頑張れ」メールが来るらしい。

もう一つは、成績上位者に対する表彰である。各学年で2年間を通してGPA上位10%は、Arjay Miller Scholar (昔の学長の名を冠した名誉)と呼ばれ、卒業式やウェブサイトで名前が好評される。卒業後に学校に授業で講演者として戻ってきた場合などで紹介されるときは、○○年卒で、Arjay Miller Scholar の・・・と紹介されたり、個人的な名誉にもなるかと。
学期ごとの上位者にも学長から「よく頑張ったね。次も頑張れ」メールが来たり、上位者だけ招待されるディナーがあったりと、「ご褒美」を上げて動機付けを図っているみたいだ。

一方で、ほとんどのMBA生が目標として来るキャリアチェンジについては、成績はほとんど関係しない。ひとつは成績が決まる前に就職活動がほとんど終わるから。もう一つ大きいのは、成績非開示という生徒間の伝統があり、自身の成績や順位について就職活動中や卒業後にも誰にも述べないからである。

生徒にとっては、成績が公開されないから、学生は自分が得意だったり経験のある分野だけでなく、不得意だったり全く新しい分野の授業に躊躇なくチャレンジできる、というメリットがある。また、そもそも学業には最低限の力しかかけず、起業・ネットワーキング・その他課外活動など、自分で優先順位を決めて没頭することができる。
全員を同じ軸で競争させるのではなく、自分で自分の大事なことや道を決めて行動する、という、スタンフォードのフィロソフィーに沿ったいい制度だと思う。

グループでプロジェクトをする授業がほとんどだけど、そのグループを組むときも、はじめのミーティングで、「成績どれくらいを狙っていく?」という会話が必ずある。そこで、「合格できればええよー」という流れになることも、「せっかくだから頑張って、でも効率的にやろうぜ」となることもある。

個人的には、僕はついついマジメに準備したり、テスト勉強もマジメにする方。プロジェクトについても、アウトプットの質について、「これくらいはできるだろ」みたいなラインがあるから、頑張る側になってしまう。そのせいか、必然的に仲のいい人にもそういう姿勢の人が多少は多くなる気がする。

そんな自分の姿勢について、「自分は学業で結果が出ることを正直に個人的にやりがいを感じる」からヨシとする部分と、「でも本当に一番いい時間の使い方なんだろうか。他にやるべきことがあるのでは?」と疑問視する自分もいる。
去年の冬に、あるアメリカ人先輩と話していたときに彼が言っていたのは、「いま自分はちょうど上位10%に入るか入らないかくらいの位置にいる (*評定平均が上位何%にあたるかの目安は公表されるが、自分の具体的な順位は分からない) から、最後の学期にどれくらい Arjay Miller を目指すかが悩ましい。ここまでは自分の興味とマジメさに任せていい成績を残せたけど、賞を取るために友達と離れる前に濃い時間を過ごす最後のチャンスである春学期に成績を気にしすぎるのはイヤだ。でもせっかくだから賞は取っておきたい気もする」 と話していたのが印象的である。

僕も2年目になって、子育ても手のかかる中で、この姿勢をどの程度維持するかが現在悩ましいところである。といっていちおうマジメな姿勢は崩さない (崩せない) んだろうな、と既に分かってる。もしこの先輩の立場になったらどう考えるんだろうか。自分の大事なこと、やりたいこと、やるべきと思っていること、欲望などを正直に把握して、自分に正直な時間配分をできるんだろうか。自分についてまた一つ考える契機になる気がする。



PS そして大学生のときに全然授業に出てなかったのは何でなんだろう、と改めて疑問に思う。。

悩めるキャリアの選択肢

僕は会社にサポートしてもらってこちらに来ているので、MBA修了後は今の会社に復職することがいちおう既定路線となっている。
とはいえ、過去も現在も、同じ立場でMBAに来て、修了後に退職する同僚も何人もいるし、金銭的にサポートしてもらっている分を返せば穏便に転職できる (キャッシュフロー的には大変だけど)。
だから、せっかく視野も機会も広がっているし、そもそも自分の人生だから好きなことをするつもりだし、キャリアについてもしょっちゅう悩んでいる。

ぶっちゃけ、渡米前にやっていた経営コンサルタントの仕事は今のところ大好きである。仕事への適性も今のポジションに関してはそれなりにあると思うし、一緒に働いた人も好きだし、日本でも海外でも楽しく仕事をしてきた。また、会社を離れて個人でコンサルタントをした時期も楽しかった。一方、試しにやったベンチャー(の手伝い)では、自分という人間がどういう場合になぜベンチャーに向いてないかを体験することができた。「せっかくシリコンバレースタンフォードなので」・「一度やってみたかったので」・「みんな(ではないが)やってるので」 etcetc という理由でベンチャーをする、という選択肢は全く考えていない。

もうひとつ悩ましいのが、自分の過去の人生体験によるような、強い方向性があんまりない、ということ。それもひとつ、ベンチャーのような個人のパッションが大きなドライバーとなる職業を選択しようと思わない理由の一つ。

そうすると、僕としては、来る半年・1年で、自分の知的興味の分野・業界とか、住みたい場所、能力の適性、その後のキャリアパスの可能性、といったことを考えてMBA直後の仕事を選んでいくだろう。あとは、当然だけど大事だと思うのが、やりたくないことは選ばないようにしたい。
また、戻る場所があり、そこをポジティブに捉えていて、更に7月には父親になるということで、就職活動に対するモチベーションとしてはだいぶ低い感じで活動することになるはず。

そんなことを思っているときに、先日、会社で同じプロジェクトでお世話になった同僚が遊びに来てくれた。彼は前途洋々な研究者で引く手数多のときに転職してうちの会社に入ってきたという、割と珍しい経歴の人である。
彼が言っていたのは、研究者の道で有望であったタイミングだからこそ転職できたし転職した。自分が今いい立場(つまり追い込まれている訳ではない)からこそ、強気で転職活動もできたし、よほどいい転職先・オファーでないと受けなかっただろう。また、「研究の道に残っていれば輝かしい将来があった・・・」と思うと、今の仕事でそれ以上の結果を出すモチベーションになる、と

言えてるなー、僕の立場にも当てはまるなー、と共感を覚えた。今の僕は、気楽なこれまでの人生の中でもとりわけ恵まれた時期で、戻る場所もあれば新たな選択肢も無限にある感じがする。しかもそれを追求する時間はたっぷりあるし、家族にも支えられている。できる範囲で強気に活動して、もしかすると前向きにリスクを取れる選択肢が現れるかもしれない。

避けたいのは、「逃げ」の転職、つまり「辞めることありき」で回避的なモチベーションで将来を選ぶこと。そのためにも、いい立場の間から活動する、というのが重要だと思う。追い込まれてから転職するのとでは、次の仕事を選び取り組む気持ちの面で違いが出るのは間違いないと思うし、出会える・手繰り寄せられる機会にも差が出るかもしれない。


そんなことを少しだけ考えつつ、出産前に妻と2人の時間を堪能したり、1人の趣味(テニス・運動など)を楽しんだりと、「就職活動へのモチベーション問題」が意外と大きいなぁ、と思う夏休みです。
キャリアについては他にもウダウダ思うことはあるので、また夏の間に書き留めようと思います。